新井賞受賞
新井賞は芥川賞、直木賞より売れる文学賞と言われ最近影響力のある賞です。書店員である新井見枝香さんが半年に一度一人で勝手に選ぶ賞で、特に授賞式などはありません。なぜこれほどまでに注目されたというと、元々新井さんは常連客の方に話しかけその人にオススメの本を紹介していて固定ファンが結構いたそうです。
その新井賞第9回受賞したダルちゃん。新井賞初の漫画となります。
新井さんの選考方法は普段全く賞の事は考えず本を読み、賞の直前にパッと「一番面白かった本は」と考えた時に出た一冊を発表するというものです。
ダルちゃんがパッと浮かぶのはわかる気がします。すごく読後の余韻が長く、何度も読み返したくなるそんな作品だと思います。
擬態とは
ダルちゃんは本当はダルダル星人で、それを悟られないように普通に擬態し生活しています。最初読んだ時、このダルダル星人ってなんの比喩なのかなと少し戸惑いました。
私自身もダルちゃんみたいに「周りに合わせるのがしんどい」という感覚をずっと持っていて。もちろん大勢の人が持っているものだとは思うんですけど。そういう感覚を一番単純化して、記号として表したら、「ダルダル星人」という姿になりました。孤独をずっと感じている人物を描きたい、という思いもありました。
引用元:HUFFPOST
作者のはるな檸檬さんはインタビューでこう答えていて、ああなるほどすごくいい表現だなぁと余計にダルちゃんが好きになりました。
誰しもこういう感覚って大なり小なりあると思います。特に社会に出ると増えますよね。
周りに馴染めなくて擬態する感覚はすごく共感しました。周りに合わす事で自分の考えている事が分からなくなっていく感覚もめちゃくちゃわかります。思ってもいない事を言ってしまったり、楽しいふりしていると意外と楽しかったかなとか思うんです。でも本当の気持ちも自分で気づかないふりをしているんですよね。
普通とは
「自分は普通じゃないから幸せになれない」ダルちゃんはそう思っていて、幸せになるために人に合わして、擬態して生きていかなきゃ幸せになれないと日々頑張っています。
普通、普通じゃないってなんでしょうね。私も気づくとよく普通は〜と言ってしまいます。よく発達障害であった元夫にも言われました。普通って何?そう言われると私も普通ってなんだろうと考え込んでしまって、何が正しいんだろうと訳がわからなくなったものです。
普通って難しいですよね..誰しも自分の基準があって、自分は普通と思っていても他人にはえ?と思うこともありますよね。私が思ったのは普通普通じゃないというより、自分の気持ちに寄り添って考えるのがいいのかなと思いました。そこで普通はというと、認識の違いからぶつかる場合もあります。普通は〜じゃなく、こういう事をしたら私はどう思うか、されたらどう思うか。自分が辛かった、嫌だったからと言うのがいいかもしれないなと感じました。
はるな檸檬さんも、一時期派遣会社で働いていた経験があるそうです。その時の体験や出せなかった思いも思い出しながら描かれたそうで、だからダルちゃんはリアリティがあり、多くの人の共感を得ているのかなと思いました。
自分の幸せは自分でしか与えられない
普通に擬態するのは幸せになりたいから。そう思う女性ってたくさんいると思います。普通に結婚して普通に子供を授かって、普通に暮らす。でもそのために自分を偽って、本当の気持ちを抑えていても全く幸せにはなりません。日々息苦しさを感じるだけで自分で自分を辛くさせています。
ダルちゃんはそんな中で、詩を書くという自分を表現することに目覚めます。
創作する人は孤独がある人、孤独をしっていて強い人なんじゃないかとはるな檸檬さんはおっしゃっています。確かに表現するという事は孤独です。誰にも頼らず自分の内側から生み出すしかないからです。
そうやって、自分を出す事自分の居場所を見つけ自分を認めはじめるダルちゃん。最後、ダルちゃんは全く擬態していないダルダル星人たちに会って、どうしてそんな事ができるの?と少し怒りにも似た感情を出します。自分は頑張って擬態して生きてきたのに、ありのまま出せるのがどうして?となるんでしょうね。そうして、世の中にはダルダル星人のまま生活している人が大勢いる事に気づきます。
それは比喩であり、ありのままの自分で生きている方たちなんだなと思いました。そうやって少しずつ生きずらい人も、他人に合わす事なくありのままの自分を愛していくのが一番いいんだという事を教えてくれるとても素晴らしい作品だと思います。
最後に
とても素敵な作品で、Twitterにも書いたんですけど最初TSUTAYAの試し読みコーナーでパラパラ立ち読みしてたのに気づいたらレジに2冊とも持って行ってました。
いろんな人に読んでみてほしい作品です。
前回漫画紹介記事
発達障害がテーマの漫画が深くて読んで欲しい。ヤマシタトモコ先生の異国日記。
最後までお読みくださりありがとうございました。
睦月